富山市山田地域では、整備された圃場一面に桜の木が立ち並ぶ、珍しい光景が見られます。平成7年、2haの水田に2千本植えられた桜は徐々に面積が拡大し、現在では10.5ha、1万2千本が栽培されています。桜の名前は「啓翁桜(けいおうざくら)」。その切り出した枝は真冬に可憐なピンク色の花を咲かせることから、生け花など観賞用として人気があります。
啓翁桜は、山田地域の稲作農家が冬作業の一環として育てているもので、約20軒の農家が花木生産組合を組織しています。枝の収穫は、毎年12月上旬から下旬に行なわれ、その後、蕾を膨らませた枝を1月上旬から2月中旬にかけて約5万本が全国へも出荷されます。
啓翁桜は、1mほどの枝に花をいくつも咲かせるものが観賞用として価値があります。市場の評価に見合うものに育てるため、独自の栽培方法があります。まず枝を切り出すまでに、気温8度以下の環境で500時間以上を過ごさなければ花揃いが悪くなるため、秋から冬にかけて気温が下がる環境がないと栽培に適さないというわけです。また、気候が温暖すぎると枝が成長し過ぎて、花と花の間隔が開いてしまうため、標高300〜400m前後の山田地域は、栽培の好適地というわけです。
切り出した枝は約40℃のお湯に1時間ほど浸けこみ、春が来たかのように勘違いさせます。その後、蕾を膨らませるため、春と似た環境にした特別な施設で、約2週間、加温・加湿します。そして、つぼみが膨らんだ頃に出荷されます。
このように育てられた啓翁桜は、ひとつのつぼみからいくつもの花が咲き、見頃が1か月ほど続きます。その後の葉桜も趣き深く、長い間鑑賞できます。外のソメイヨシノがつぼみを膨らませるまで、玄関先や床の間にひと足早い春を咲かせるというわけです。
啓翁桜の栽培技術は、全国で最も出荷量が多い山形県で確立されました。山田地域においても栽培の中心になっている所は、砺波市との境にある清水(しょうず)という地区です。減反で稲作栽培ができなくなった水田を有効活用するため、平成7年から植栽をはじめ、先進地である山形県を何度も訪問して、技術を学びました。初出荷は、平成13年のこと。1度切り落とした枝は、次の出荷までまた5年間成長を待たなければいけません。そのため、耕作面積を毎年1ha単位で増やし、100本前後の木を新たに植栽し続けました。平成21年に栽培面積が10haを超え「ようやく産地と呼べる規模になった」と、山田村花木生産組合の石﨑貞夫会長は胸を張ります。啓翁桜は一度植えた木はこの先もずっと収穫できます。毎年ひと足早く春を届ける啓翁桜が、山あいの集落に長い春をもたらしてくれるものと期待が高まります。
啓翁桜は、支那桜桃(シナオウトウ)と彼岸桜(ヒガンザクラ)を交配して作られた寒緋桜(カンヒザクラ)の一種です。昭和初期に誕生し、交配した人の名にちなんでその名がつけられたと言われます。ソメイヨシノのように太い幹はなく、細長い枝が何本も集まってひとつの株をつくり、その枝に濃いピンク色の可憐な花を咲かせるのが特長です。促成栽培がはじまったのは昭和40年代から。先進地として山形県が取り組んでおり、正月用の生け花として、全国の花き市場やインターネットを通じて全国に販売されています。
山田地域の啓翁桜が、今後どれだけ評価を高めるか、その取組みが注目されます。
[今が旬 バックナンバー]
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■2009年8月:呉羽梨
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