県全体のほうれん草生産量のうち、7割超を高岡市が占めます。そんな一大産地で、今から5年前の平成18年にはじまったのが「寒締(かんじ)めほうれん草」の栽培。今では射水市などでも栽培されています。寒締めほうれん草とは、その名の通り、寒気にさらしたほうれん草のことで、旬は冬。年末から大寒にかけてが、収穫の最盛期です。
寒締めほうれん草の最大の特長は、甘みが強いことです。通常、ほうれん草の糖度はだいたい4〜5度であるのに対して、寒締めほうれん草は8度から10度近くまであり、これはフルーツトマトに匹敵するほどです。ほうれん草は、寒気にあてると、凍結することを防ぎでんぷんを糖に変えるため、糖度が高まります。糖度だけでなく、ビタミンC、ビタミンE、βカロチンの濃度も上昇し、その一方で、過剰摂取すると問題とされる硝酸や、えぐ味のもととなるシュウ酸の含量が低下することがわかっています。
寒締めほうれん草は、秋に種をまき、ビニールハウス内で十分に生育させた段階で、ハウスに寒気を通します。一般的には、5度以下の気温で10日以上放置することで糖度が上がるとされています。
葉は、丸みを帯びて上へ細長く伸びる通常のほうれん草と異なり、地面を這うようにして横へ広がります。これは、雪の下敷きになっても折れないようにするためで、茎の部分はほとんどありません。葉はぶ厚く濃い緑色をしており、寒気にさらされることで縮んでシワが寄っています。一見すると固そうに見えますが、食感は肉厚でやわらかく、そのギャップがまた魅力的です。
通常のほうれん草は、葉の根元をテープなどで束ねて販売されます。ところが寒締めほうれん草は、葉を横に広げた状態のまま収穫され、そのまま全体を鮮度保持フィルム等に入れて販売されます。袋に「寒締めほうれん草」と記されており、その姿を見慣れない人は、表示を見て初めてほうれん草であることを確認することでしょう。
葉を横に伸ばす寒締めほうれん草は、一株の直径が30センチ近くまで広がります。通常のほうれん草より栽培面積を要するため、農家にとって効率がいいとはいえません。十分に生育した後、しばらくのあいだ収穫せず冷気にさらすため、通常より収穫までの時間がかかります。鮮度保持フィルムに入れる作業も、栽培農家にとってはひと手間です。このように、寒締めほうれん草は、通常より時間と手間を要する生産者の苦労の詰まった作物といえます。
その一方で、冬季は害虫が少なく、防除回数も少なくできるというメリットがあります。高岡市内では5戸の農家が栽培し、糖度と栄養価が高い寒締めほうれん草を、県内各地の市場へ送り出しています。
手間と時間をかけてつくられる寒締めほうれん草は、通常のほうれん草よりもパワーが感じられます。味は濃厚で、歯ごたえがあり、煮崩れなどもしません。煮物、炒め物など、通常と同様に使用でき、イタリアンやフレンチなどに使われる洋の食材とも相性がよいです。逆にシンプルな料理で、素材の味そのままを味わうのもよいでしょう。
葉に縮れがあるぶん土が残りやすいため、水を溜めたボウルなどに浸して丁寧に洗うとよいでしょう。見た目は剛健ですが、葉は柔らかく火通りがいいので、調理時間は通常と変わりません。いろんなアレンジで、寒締めほうれん草特有の高い糖度と栄養価を実感してみてください。